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臨床研究
冠動脈疾患に関する臨床研究
われわれは主に冠動脈疾患の臨床研究をおこなっています。柱となるのは①冠動脈イメージングと②冠動脈生理学的評価です。
① 冠動脈イメージング
われわれの特徴は血管内超音波(IVUS: intravascular ultrasound)、光干渉断層法(OCT: optical coherence tomography)、血管内視鏡、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS: near-infrared spectroscopy)といった様々な血管内イメージングデバイスを積極的に用いて冠動脈インターベンションを施行している点です。その蓄積されたデータから冠動脈疾患の病態を明らかにし、より精度の高い予後予測や、より効果的な冠動脈インターベンションに還元することを目的に研究を行っています。関連病院においても同様に冠動脈イメージングを積極的に用いている病院が多く、多施設でのデータを統合した研究も行っています。
② 冠動脈生理学的評価
また、近年安定狭心症に対する冠動脈インターベンションの是非が問われる中で、心筋虚血をいかに評価するかが安定狭心症の診療において重要な位置を占めてきています。冠血流予備量比(FFR: fractional flow reserve)をはじめとして、冠血流予備能(CFR: coronary flow reserve)や微小血管抵抗(microvascular resistance)など詳細な生理学的指標を評価し、これらを用いて冠動脈疾患の生理学的な評価に関する研究も行っています。
1. 冠動脈イメージングデバイスを用いて冠動脈疾患の病態解明を目指した研究
研究内容
急性冠症候群の病態
近年、冠動脈疾患の予防や治療が進歩を遂げているものの、いまだ冠動脈疾患は先進国の成人の死亡原因の上位を占めています。特に急性心筋梗塞を代表とする急性冠症候群は死亡率も高く、その治療や予防は我々の重要な責務と言えます。急性冠症候群は冠動脈内に血栓を形成することで発症します。血栓の基盤となるプラークは病理学的にはプラーク破綻(plaque rupture)、プラークびらん(plaque erosion)、石灰化結節(calcified nodule)に分類されますが、OCTは特にこれらのプラーク性状を正確に分類できると報告されています。中でもプラーク破綻は急性冠症候群の約70%を占めると言われており(図1)、これはプラーク内の粥種の被膜が薄くなり破けることで血管内に血栓の凝集を惹起します。われわれのグループは生体内で被膜がどの程度薄くなると破けるのかOCTで評価し80μmがひとつの閾値であることを示しました(Yonetsu et al. Eur Heart J 2011)。また、急性冠症候群の患者の中でプラーク破綻の患者とプラークびらんの患者での予後の違いに関しても検討し、プラーク破綻患者の方がその後のイベントが多いことを示しました(Yonetsu et al. Int J Cardiol 2016)。さらに急性冠症候群の責任プラーク性状はアスピリンの内服歴や発症時のLDLコレステロールと関連性があることを示しました。
冠動脈イメージングに関しては、定期的にMassachusetts General Hospital や Columbia University / Cardiovascular Research Foundationに研究員を送っており、各留学先において医局員による論文発表もさかんです。
さらに現在、臨床検査部門の研究室と共同で新しい脂質系マーカーとの関連を調べる研究や、NIRS-IVUSを用いたレジストリなども行っています。
図1 冠動脈血栓症の原因
冠動脈血栓症のベースとなるプラーク形態としてプラーク破綻(plaque rupture)、プラークびらん(plaque erosion)、石灰化結節(calcified nodule)が挙げられる。発生した冠動脈血栓症の一部が急性冠症候群を発症し、残りの病変は血栓性閉塞をきたさずに修復される。修復されたプラークはhealed coronary plaque (HCP)となりOCTでは層状のプラークとして描出される。
図2 Yonetsu et al. Int J Cardiolより
ステント不全の病態(ステント留置後の新生内膜の評価)
冠動脈ステントは1990年代に臨床使用が始まって以来、再狭窄やステント血栓症といった弱点を補うように新しい世代のステントが開発されてきましたが、未だにそれらのステント不全を完全に予防することは困難です。特にvery late stent thrombosis(VLST)にはステント留置後の新生内膜内に新たに出現する動脈硬化(neoatherosclerosis)が関連していると報告されており、治療のターゲットとしても期待されています。我々は第一世代の薬剤溶出性ステントでは留置後10年以上経過してもneoatherosclerosisが増加していくことや(Usui et al. Eurointervention 2016)、neoatherosclerosisと血管のリモデリングが関連すること(Araki et al. J Cardiol 2018)を報告してきました。加えて現在は血管内視鏡などの他のイメージングデバイスのデータも補足してステント留置後の新生内膜評価により、ステント不全の予測や予防に関連する研究を行っています。
図3 Usui et al. Eurointervention 2018;14:e1316-e1323より
2. 冠動脈生理学的評価を用いて冠動脈疾患の病態解明を目指した研究
研究内容
生理学的指標と予後の関係に関する研究
近年、心筋虚血の評価の重要性が唱えられており、特にFFRの有用性が大規模試験で示されてからは、心臓カテーテルを用いた冠動脈生理学的評価が心筋虚血評価のスタンダードのひとつになっています。また、近年心負荷をかけずにFFRと同様の評価を行うinstantaneous wave-free ratio (iFR)をはじめとする安静時指標も広く普及し始めていますが、これらの指標のメカニズムやそれぞれの指標の相違点など不明な点も存在します。われわれはFFRのみでなくiFR, CFR, microvascular resistanceなど詳細な生理学的評価を行いこれらの関係や予後に与える影響などを研究しています。 また、冠動脈疾患だけでなく心筋症などの心筋疾患における冠動脈生理学的指標の意義についても研究を行っています。
・最近の主な業績(代表4編)
- Yonetsu T, Hoshino M, Lee T, Murai T, Sumino Y, Hada M, Yamaguchi M, Kanaji Y, Sugiyama T, Niida T, Matsuda J, Hatano Y, Umemoto T, Sasano T, Kakuta T. Impact of Sex Difference on the Discordance of Revascularization Decision Making Between Fractional Flow Reserve and Diastolic Pressure Ratio During the Wave-Free Period. J Am Heart Assoc 2020;9:e014790.
- Yonetsu T, Hoshino M, Lee T, Kanaji Y, Yamaguchi M, Hada M, Sumino Y, Ohya H, Kanno Y, Hirano H, Horie T, Niida T, Matsuda J, Umemoto T, Sasaoka T, Hatano Y, Sugiyama T, Sasano T, Kakuta T. Plaque morphology assessed by optical coherence tomography in the culprit lesions of the first episode of acute myocardial infarction in patients with low low-density lipoprotein cholesterol level. J Cardiol 2020;75:485-493.
- Nakamura S, Yamamoto T, Teng Y, Matsumoto S, Kasano K, Yoshiwara H, Hattori E, Tokunaga T, Yonetsu T, Hirao K. Impact of intensively lowered low-density lipoprotein cholesterol on deferred lesion prognosis. Catheter Cardiovasc Interv 2020;95:E100-E107.
- Sugiyama T, Yamamoto E, Fracassi F, Lee H, Yonetsu T, Kakuta T, Soeda T, Saito Y, Yan BP, Kurihara O, Takano M, Niccoli G, Crea F, Higuma T, Kimura S, Minami Y, Ako J, Adriaenssens T, Boeder NF, Nef HM, Fujimoto JG, Fuster V, Finn AV, Falk E, Jang IK. Calcified Plaques in Patients With Acute Coronary Syndromes. JACC Cardiovasc Interv 2019;12:531-540.
文:米津 太志