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高安動脈炎の発症機序解明を目指した研究

研究目的

難治性血管炎のひとつである高安動脈炎の発症および病状進展機序に、疾患感受性遺伝子の変異が関与していることを明らかにして、有効な治療法の開発を目指しています。

研究内容

高安動脈炎の疾患感受性遺伝子同定と発症機序の探索についての研究

難治性血管炎のひとつである高安動脈炎の発症および病状進展機序に、疾患感受性遺伝子の変異が関与していることを明らかにして、有効な治療法の開発を目指しています。

高安動脈炎は大動脈をはじめとする大型動脈が炎症に侵されて狭窄や拡張を生じ、多彩かつ重篤な症状を示す難治性疾患です。厚生労働省の統計によると、本邦で約5,000名の患者様がおられ、毎年およそ200名程度の方が新たに発症しております。約100年前に本邦で発見されて以来、患者数が多いこともあり、我が国が本疾患研究の先頭に立ってきました(Ishihara et al. JACC 2011)。高安動脈炎は自己免疫異常により病状が進展しますが、その発症機序については不明のままです。そのため治療は非特異的な免疫抑制療法に限られており、治療難渋例が多いのが現状です。

GWASの結果、各染色体上のSNP(X軸)と関連の強さ(Y軸)を示す。

GWASの結果、各染色体上のSNP(X軸)と関連の強さ(Y軸)を示す。

高安病患者の約98%は弧発例ですが、一卵性双生児の症例が存在することから、本症の発症に遺伝要因が関与している可能性は以前から指摘されてきました。以前に、本邦ではヒト白血球組織適合抗原(HLA)クラスI分子-B*52の陽性例では、陰性例と比較して重症例が多いことが報告されています。最近、私たちは共同研究グループと協力して高安病患者を対象とした全ゲノム関連解析(GWAS)を施行して高安病の疾患関連感受性遺伝子を発見しました(Terao C et al. Am J Hum Genet 2013)。その結果、既知の6番染色体上にあるHLA-B領域のほか、5番染色体上にあるIL12B領域と17番染色体上にあるMLX領域の一塩基多型(SNP)が高安病と関連していることを見いだしました(図)。しかしながら、これらのうちどの遺伝子が高安病の発症により重要な役割を担っているのかは不明のままです。

かつては自己免疫疾患の全てにおいて特異的な治療がない状態でしたが、近年の目覚ましい研究の進歩の成果として慢性関節リウマチや乾癬など一部の自己免疫疾患では抗サイトカイン療法などの有効な治療法が確立されるようになりました。その一方で、高安動脈炎の原因および病態進展機序の解明が他の自己免疫疾患と比較して後れを取った原因としては次のことが考えられます。

  • 1. 患者数が少ないため、系統的に病因や病態を調査・研究する機会が限られている。
  • 2. 遺伝子異常が発症に関与している可能性が高く、その候補遺伝子が発見されたばかりである。
  • 3. 高安病関連遺伝子の候補であるMLXは転写因子であること以外その機能がわかっていない。

問題点を解決するため、私たちは下記のような取り組みを通じて解決していく所存です。

1. 高安動脈炎の患者数は圧倒的にアジアに多いことがわかっております。当科外来には現在約100名の高安動脈炎の患者様が通院しておられ、過去の臨床データも含めると約150名の情報を有しております。このように、私たちが保有する高安動脈炎に関する情報は、単一施設のデータベースとしては世界最大級であり、系統的に高安動脈炎の病因や病態を調査・研究するにふさわしい施設であると考えます。

2. 高安動脈炎関連遺伝子の有力候補として、IL12B/MLX遺伝子が判明して、直ちに私たちおよび共同研究グループはこれらの遺伝子のSNPの変化がそれぞれの遺伝子の転写産物の質的・量的変化をきたしているかどうかと臨床症状との関連についての検討を開始し、研究成果を発信しつつあります。

3. MLXはE-boxに結合する、mycに類似した特徴を持つbHLH-Zip型転写因子です。その機能については不明な点が多く、免疫制御系との関わりについては今までの報告は皆無です。しかしながら、私たちはMLXがリンパ球に高発現していること、高安病患者で認められたSNPの変化により機能獲得性変異を起こしうることを見いだしており(Maejima Y. AHA Scientific Sessions 2014)、MLXと高安動脈炎の発症との関わりを検討することは、高安動脈炎の病因に迫りうる重要な研究課題であると考えております。

・主な業績(代表6編)

  • Terao C, Ebana Y, Maejima Y, Isobe M, et al. Two susceptibility loci to Takayasu arteritis reveal a synergistic role of the IL12B and HLA-B regions in a Japanese population. Am J Hum Genet 93:289-97, 2013.
  • Ishihara T, Haraguchi G, Kamiishi T, Tezuka D, Inagaki H, Isobe M. Sensitive assessment of activity of Takayasu’s arteritis by pentraxin3, a new biomarker. J Am Coll Cardiol 57: 1712-3, 2011.
  • Tezuka D, Haraguchi G, Ishihara T, Ohigashi H, Inagaki H, Suzuki J, Hirao K, Isobe M. Role of FDG PET-CT in Takayasu arteritis: sensitive detection of recurrences. JACC Cardiovasc Imaging 5: 422-9, 2012.
  • Ishihara T, Haraguchi G, Tezuka D, Kamiishi T, Inagaki H, Isobe M. Diagnosis and assessment of Takayasu arteritis by multiple biomarkers. Circ J 77: 477-83, 2013.
  • Takamura C, Ohhigashi H, Ebana Y, Isobe M. New human leukocyte antigen risk allele in Japanese patients with Takayasu arteritis. Circ J 76:1697-702, 2012.
  • Ohigashi H, Isobe M, et al. Improved prognosis of Takayasu arteritis over the past decade–comprehensive analysis of 106 patients. Circ J 76: 1004-11, 2012.

文:前嶋康浩/磯部光章